冷たい水を口に含んだ瞬間、キーンと走る痛み。歯磨きのたびに前歯の付け根がしみる。そんな症状に心当たりのある方は、意外と多いのではないでしょうか。私の診療室にも「虫歯かと思って来ました」とおっしゃって来院される患者様が絶えません。ところが実際に診てみると、虫歯ではなく歯茎が下がって歯の根が露出しているケースが非常に多いのです。
この歯茎下がり(歯肉退縮)と知覚過敏、そして歯周病。この三つは、実はバラバラの問題ではなく、密接に絡み合っています。放っておけば少しずつ進行し、気づいたときには歯の根がむき出しになっていた、ということも珍しくありません。
今日は中目黒で歯科医院を営む私が、なぜ歯茎が下がるのか、そのしみる痛みの正体は何なのか、そしてご自宅でできる対処法まで、現場で見てきたことを交えながらお話ししていきます。
歯茎が下がると、なぜしみるのか
まず知っていただきたいのが、歯の構造です。歯冠(お口の中に見えている部分)は硬いエナメル質に覆われていて、多少の刺激では痛みを感じません。ところが歯茎に隠れている歯の根の部分には、このエナメル質がありません。代わりに象牙質という組織が表面に出ています。
象牙質の中には「象牙細管」という無数の細い管が通っていて、その先は歯の神経につながっています。歯茎が下がってこの象牙質が露出すると、冷たいものや熱いもの、甘いもの、あるいは歯ブラシの毛先といった刺激が管を通じて神経に直接伝わってしまう。これがいわゆる象牙質知覚過敏の正体です。
実際の診療現場では、「ここ一年で急にしみるようになった」という訴えの裏に、歯茎の後退が隠れていることがとても多い。虫歯のように穴が空くわけではないので、ご本人はなかなか気づきにくいのですね。鏡で前歯や犬歯の付け根を見て、以前より歯が長く見えるようになったと感じたら、それは歯茎が下がっているサインかもしれません。
歯茎下がりを引き起こす主な原因
歯茎が下がる原因はひとつではありません。私が診てきた中で特に多いのは、次のようなものです。
ひとつめは歯周病です。歯周病菌によって歯を支える骨(歯槽骨)が溶けていくと、それに伴って歯茎も下がっていきます。これは知覚過敏だけでなく、最終的に歯を失う原因にもなる、もっとも注意すべきパターンです。中目黒の当院にも、しみる症状をきっかけに歯周病が見つかる方が少なくありません。
ふたつめは誤った歯磨き。強い力でゴシゴシと横磨きを続けると、歯茎は物理的に削られ、少しずつ後退していきます。硬い歯ブラシを使っている方や、時間をかけて丁寧に磨いているつもりが力任せになっている方に多く見られます。
そのほか、歯ぎしりや食いしばりによる過度な力、加齢による変化、矯正治療後の変化なども関わってきます。原因が複数重なっていることも珍しくないので、しみる症状があるなら、まず何が起きているのかを正確に見極めることが第一歩になります。
知覚過敏に対するセルフケア|歯磨き粉の力
「しみるのを何とかしたい」というご希望に対して、ご自宅でできる対策の柱になるのが、知覚過敏用の歯磨き粉です。ここで薬用成分として長年評価されているのが硝酸カリウムです。
硝酸カリウムは、歯の神経の周りに作用して刺激の伝わりを鎮める働きがあるとされています。1994年に報告された臨床研究では、5.0%の硝酸カリウムに可溶性ピロリン酸、PVM/MAコポリマー、フッ化ナトリウムを配合した歯磨剤を12週間使用したところ、硝酸カリウムを含まないプラセボと比べて象牙質知覚過敏が有意に改善したことが示されています。67名の被験者を対象に、熱刺激に対する反応などを丁寧に評価した研究です。
さらに同じ1994年の別の比較研究では、この処方の歯磨剤を、同じく5%硝酸カリウムを含む市販品(モノフルオロリン酸ナトリウム配合のもの)と比較しても、遜色のない効果が確認されています。つまり硝酸カリウム配合の歯磨き粉は、地道に使い続けることで知覚過敏をやわらげる根拠がある、ということです。ただし即効性を期待するものではなく、数週間かけてじわじわ効いてくるタイプなので、途中でやめず継続することが大切です。
やってはいけないセルフケアと正しい磨き方
知覚過敏に悩む方がやりがちな失敗が、「しみる=汚れが残っている」と思い込んで、さらに強く磨いてしまうことです。これは逆効果。すでに述べたように、強すぎるブラッシングは歯茎の後退と象牙質の摩耗を進めてしまいます。しみるからと磨くのを避けてしまうのも、プラークがたまって歯周病を悪化させるので、これもいけません。
おすすめしたいのは、やわらかめの歯ブラシを鉛筆持ちで、優しく小刻みに動かす方法です。力ではなく毛先の細やかな動きで汚れを落とすイメージを持ってください。歯と歯茎の境目に毛先を軽く当てる程度で十分に汚れは取れます。
加えて、酸性の飲食物のとり方にも気を配ってほしいところです。柑橘類や炭酸飲料、ワインなどを頻繁に口にすると、露出した象牙質が酸で溶かされやすくなり、しみやすさが増します。だらだらと飲食を続けないこと、口をゆすぐことなど、小さな習慣の積み重ねが症状の安定につながっていきます。
中目黒コヤス歯科の全身的アプローチ
当院では、しみる症状を単に「知覚過敏の薬を塗って終わり」とは考えません。院長である私は歯学博士として、その症状の背景に何があるのかを根本から見極めることを大切にしています。歯周病が原因なら歯周治療を、噛み合わせや食いしばりが関わっているなら咬合の調整を、というように、原因に応じたアプローチを組み立てていきます。
特に力を入れているのが栄養療法・分子整合医学の視点です。歯茎の健康は、実は全身の栄養状態と深くつながっています。タンパク質やビタミンC、鉄などが不足していると、歯茎のコラーゲンがうまく作られず、歯周組織の回復力が落ちてしまう。しみる・歯茎が下がるという口の中のサインを、体全体の状態と結びつけて考えられるのが当院の強みです。
また、歯を失ってしまった場合の選択肢としてバイコンインプラントを採用しています。歯周病を放置した末にインプラントを検討される方もいらっしゃいますが、そうなる前に、しみる段階でご相談いただくことが何より大切だと考えています。中目黒で歯医者をお探しの方に、その場しのぎではない、長く健康を保つための歯科医療を提供したいと思っています。
よくある質問
知覚過敏用の歯磨き粉はどのくらい使えば効果が出ますか?
硝酸カリウムを配合した歯磨き粉の臨床研究では、12週間の継続使用で有意な改善が確認されています。数日で劇的に変わるものではなく、少なくとも2〜4週間は毎日続けていただくことで、じわじわと効果を感じられるケースが多いです。使い続けても改善しない場合は、歯周病など別の原因が隠れている可能性があるので、一度ご相談ください。
しみるのは知覚過敏だと自分で判断してよいですか?
おすすめしません。しみる症状は、知覚過敏だけでなく虫歯やひび割れ、歯周病など、まったく別の原因でも起こります。特に痛みが長く続く、ズキズキするといった場合は神経の炎症も疑われます。自己判断で放置すると悪化することがあるので、症状が続くなら中目黒の当院を含め、歯科での確認をおすすめします。
下がってしまった歯茎は元に戻りますか?
一度下がった歯茎が自然に元通りになることは、基本的にありません。ただし、原因となっている歯周病や誤った歯磨きを改善すれば、それ以上の進行を食い止めることは十分に可能です。症例によっては歯茎を移植する外科的な処置で回復を図れる場合もあります。まずは進行を止めることが最優先です。
まとめとご案内
歯茎が下がってしみる症状は、知覚過敏という一時的な問題であると同時に、歯周病という重大なサインの入り口でもあります。硝酸カリウム配合の歯磨き粉や正しいブラッシングといったセルフケアはとても有効ですが、それだけで原因が解決するわけではありません。大切なのは、なぜその症状が出ているのかを見極めること。中目黒駅近くの当院では、歯周病治療から栄養面のサポートまで、お一人おひとりの背景に合わせた診療を行っています。冷たいものがしみる、歯が長くなった気がする、そんな小さな変化を感じたら、悪化する前にどうぞお気軽にご相談ください。
中目黒コヤス歯科 院長 小安正洋




