「歯を抜いたその日に、そのままインプラントを入れられるって本当ですか?」――診療室でこの質問をいただく回数は、年々増えている気がします。ネットや広告で「抜歯即時埋入」という言葉を目にして、来院される方が多いのでしょう。確かに、通院回数が減り、治療期間も短くなる魅力的な方法です。でも、実際にはすべての方に適用できるわけではありません。この点を曖昧にしたまま話が進むと、あとで思わぬトラブルにつながることもあります。
今日は、抜歯即時埋入がどんな治療なのか、そして「その日に入れられる条件」とは具体的に何を指すのか、現場の視点を交えながら丁寧にお話ししていきます。
抜歯即時埋入とはどういう治療なのか
抜歯即時埋入とは、その名の通り、歯を抜いた直後の穴(抜歯窩)に、間を置かずインプラント体を埋め込む方法です。従来のインプラント治療では、まず歯を抜いて、傷が治り骨が落ち着くまで数ヶ月待ち、それから改めて埋入手術を行うのが一般的でした。この待機期間をショートカットできるのが、即時埋入の最大の特徴です。
患者様にとってのメリットは分かりやすい。手術の回数が減り、通院の負担が軽くなります。抜歯窩の自然な形を活かせるため、歯ぐきや骨の形態を保ちやすく、審美的にも有利に働くケースがあります。特に前歯など、見た目が重視される部位では、この点が大きな意味を持ちます。
ただ、私が診療の現場で感じるのは、「早い・簡単」というイメージだけが先行しがちだということです。抜歯即時埋入は、条件が揃って初めて安全に成立する、いわば繊細なバランスの上に成り立つ治療です。歯を抜いた穴とインプラントの間には隙間が生じますし、感染のリスクや初期固定の問題もある。だからこそ、どういう状態なら踏み切れるのか、事前の見極めが本当に大切になってきます。
その日に入れられる「4つの条件」
実際に即時埋入が可能かどうかを判断するとき、私が特に重視しているポイントがいくつかあります。ひとつずつ見ていきましょう。
1. 十分な骨の量と質があること
抜歯した穴の周囲に、インプラントをしっかり支えるだけの骨が残っているかどうか。これが第一関門です。歯を支えていた骨が炎症で溶けてしまっていると、埋入しても安定しません。CT撮影で骨の高さや幅、密度を三次元的に確認し、初期固定が得られる見込みがあるかを判断します。
2. 感染や強い炎症がないこと
抜歯の原因が重度の歯周病や根尖病巣による感染の場合、その部位への即時埋入は慎重にならざるを得ません。細菌が残った状態で埋入すると、骨結合がうまくいかず、失敗の確率が上がります。急性の膿がある場合は、まず炎症を落ち着かせることを優先します。
3. 全身の健康状態が安定していること
コントロールされていない糖尿病や、骨代謝に影響する一部の薬を服用中の方は、慎重な検討が必要です。喫煙習慣も骨結合を妨げる大きな要因で、これは本当によく問題になります。
4. 良好な初期固定が得られること
手術中に実際に埋入してみて、インプラントがグラつかず、しっかり固定される感触があるか。これは術前の画像だけでは完全には読み切れず、最終的には術中の判断も必要になります。無理に即時埋入にこだわらず、状況次第で待機を選ぶ柔軟さも、安全な治療には欠かせません。
バイコンインプラントが即時埋入に向いている理由
当院で採用しているバイコンインプラント(Bicon Dental Implants)は、抜歯即時埋入との相性が非常に良いシステムだと感じています。その理由は、独特の構造設計にあります。
まず特筆すべきは、スクリュー(ネジ)を使わない「1.5度ロッキングテーパー構造」です。一般的なインプラントは、土台と被せ物をネジで連結しますが、このネジの隙間から細菌が侵入し、内部で炎症を起こすトラブルが起こり得ます。バイコンはネジ接合を用いず、テーパー(傾斜)による摩擦で強固に一体化するため、いわゆるバクテリアルシールが形成され、細菌の侵入経路そのものを断ちます。抜歯窩という、もともと感染リスクを抱えやすい環境に埋入する即時埋入において、この特性は非常に心強い。
もうひとつが、独自のプラトー(フィン)デザインです。ネジ山ではなく、棚状のフィンがインプラント表面に配置されており、この構造がフィン同士の間に骨がしっかり入り込むための空間を生み出します。ここで形成されるのが、天然骨に近いハバース管(Haversian canal)を持つ成熟した骨組織だという点が学術的にも注目されてきました。単に骨とくっつくだけでなく、生きた血管を伴う本来の骨が再生されることで、長期的な安定につながると考えられています。
さらにバイコンはショートインプラントのパイオニアとしての長い歴史を持ちます。骨の量が限られたケースでも、大がかりな骨造成(骨を増やす手術)を回避できる可能性が広がる。これは患者様の身体的な負担を減らすうえで大きな意味があり、数多くの臨床論文でその長期的な安定性が報告されてきました。
骨と再生医療をめぐる研究が示すもの
インプラントの成否は、結局のところ「骨がどれだけ健全に育つか」に大きく左右されます。この分野では、骨の再生を促す材料の研究が世界中で進んでいます。少し専門的になりますが、興味深い知見をご紹介します。
たとえば、ポリリン酸カルシウム(CPP)という生体材料を用いた研究では、多孔質構造をもつCPP足場をウサギの大腿骨に移植したところ、良好な骨の形成が確認されたと報告されています(2013年の研究)。また、ストロンチウムを加えたCPPと自家骨髄由来の細胞を組み合わせることで、骨壊死モデルにおいて新しい骨の形成が促進され、大腿骨頭の崩壊を防ぐ相乗効果が示された研究もあります(2015年)。
さらに2019年の研究では、血管新生を促す血管内皮増殖因子(VEGF)を含ませたリチウムドープCPP複合足場が、骨壊死の治療において有効性を示しました。ここで重要なのは、単なる「骨の骨格」だけでなく、血管を伴った生きた骨を育てるという発想です。バイコンのプラトーデザインがハバース管を持つ骨を形成するという特性とも通じる考え方で、私自身、こうした基礎研究の潮流を治療の背景として意識しています。もちろん、これらは整形外科領域の研究であり、そのまま歯科に応用できるものではありませんが、「骨をどう健全に再生させるか」という視点は、インプラント治療全体を支える土台となる知見です。
中目黒コヤス歯科ならではのアプローチ
抜歯即時埋入を安全に行うには、精密な診断と、骨・全身の状態を見極める総合的な視点が欠かせません。当院の院長は歯学博士として、エビデンスに基づいた診療を大切にしてきました。CTによる三次元的な骨の評価はもちろん、無理に即時埋入を勧めるのではなく、その方にとって本当に適応があるかを誠実にお伝えすることを何より重視しています。
そしてもうひとつ、当院の特色が栄養療法・分子整合医学の視点を取り入れた全身的アプローチです。骨がうまく育つかどうかは、タンパク質やビタミン、ミネラルといった栄養状態にも影響されます。ビタミンDやたんぱく質の不足が、傷の治りや骨結合に関わることは、栄養学的にも指摘されているところです。インプラントを「歯だけの問題」として切り離すのではなく、身体全体の健康の一部として捉える。この考え方が、長期的な成功率を支えると私は考えています。
中目黒で歯医者・歯科をお探しの方、特にインプラントや抜歯即時埋入を検討されている方には、まず現状を正確に知っていただくことから始めたいと思っています。バイコンインプラントの特性を活かしつつ、その方に本当に合った選択肢を一緒に探していく。それが当院の姿勢です。
よくある質問
抜歯即時埋入は誰でも受けられますか?
いいえ、すべての方に適用できるわけではありません。抜歯部位に十分な骨があること、強い感染や炎症がないこと、全身状態が安定していること、そして手術時に良好な初期固定が得られることが条件になります。CT検査などで事前に慎重に見極める必要があり、状況によっては待機してから埋入する方が安全なケースもあります。
抜歯した日に、噛める歯まで入るのですか?
即時埋入とは「インプラント体をその日に埋める」ことを指し、必ずしも最終的な被せ物まで同日に完成するわけではありません。前歯などでは見た目のために仮の歯を装着することもありますが、埋入したインプラントに強い力がかからないよう配慮します。最終的な被せ物は、骨結合が安定してから装着するのが基本です。
バイコンインプラントは即時埋入に強いと聞きましたが本当ですか?
ネジを使わないロッキングテーパー構造により細菌の侵入を防ぐバクテリアルシールが得られる点や、プラトーデザインによって血管を伴う成熟した骨が形成される点は、感染リスクのある抜歯窩への埋入において有利に働くと考えられています。ただし、最終的な適応は個々の骨や全身の状態によって判断されます。
まとめとご案内
抜歯即時埋入は、条件が揃えば通院回数も治療期間も短縮できる、非常に魅力的な選択肢です。しかし、その「条件」こそが何より大切で、骨の状態、感染の有無、全身の健康、初期固定――これらを丁寧に見極めてこそ、安全で長持ちする結果につながります。ネジを使わないバイコンインプラントの特性や、栄養面まで含めた全身的な視点は、その成功率をさらに高めてくれるはずです。中目黒駅近くの当院では、CTによる精密な診断のもと、あなたにとって本当に適した方法をご一緒に考えます。抜歯やインプラントで迷われている方は、まずはお気軽にご相談ください。
中目黒コヤス歯科 院長 小安正洋




