「健康診断で脂肪肝を指摘されたけれど、お酒はほとんど飲まないのに、なぜ?」——こう首をかしげる患者様は、実は珍しくありません。そして意外に思われるかもしれませんが、その脂肪肝の背景にお口の中の慢性的な炎症、つまり歯周病が関わっているケースがあるのです。私自身、内科的な数値に悩む方の歯ぐきを診て、その相関に驚かされた経験が何度もあります。
脂肪肝、専門的には非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる状態と、歯周病。一見まったく別の臓器の話に思えますよね。ところが体の中では、慢性炎症という一本の糸で静かに繋がっています。今日は中目黒で診療する立場から、この見過ごされがちな関係について、できるだけ噛み砕いてお話しします。
歯周病はお口だけの病気ではありません
歯周病というと、多くの方が「歯ぐきが腫れる」「歯がグラグラする」といった局所的なイメージを持たれています。もちろんそれは正しいのですが、問題の本質はもう少し深いところにあります。歯周病は、歯を支える組織で慢性的な細菌感染と炎症が延々と続いている状態です。
この炎症が厄介なのは、局所にとどまらないという点です。歯周ポケットの内側は、傷ついた血管がむき出しになった状態に近く、そこから歯周病菌やその毒素(内毒素)、そして炎症性の物質が血流に乗って全身へと運ばれていきます。実際の診療現場では、歯ぐきからの出血が続いている方ほど、全身的な炎症マーカーが高い傾向を感じることがあります。
つまり、お口は全身への「入口」であると同時に、慢性炎症の「発信源」にもなり得るということです。この視点を持つと、歯周病と内科疾患が繋がってくる理由が見えてきます。糖尿病との関連はよく知られていますが、近年は肝臓、とりわけ脂肪肝との関わりにも注目が集まっているのです。
脂肪肝(NAFLD)とはどんな状態か
NAFLDは、飲酒習慣がほとんどないのに肝臓に脂肪が過剰に溜まってしまう状態を指します。かつては「食べすぎ・運動不足のサイン」程度に軽く見られがちでしたが、今では放置すると肝炎(NASH)や肝硬変へ進行しうる、決して侮れない疾患として位置づけられています。
この脂肪肝の進行に深く関わっているのが、やはり体内のくすぶった炎症とインスリン抵抗性です。脂肪が溜まった肝細胞に炎症が加わると、肝臓のダメージが加速していきます。そしてこの炎症の火種をどこから供給しているのか——ここに歯周病が絡んでくる余地が生まれるわけです。
お酒を飲まないのに脂肪肝、という方の中には、体のどこかで持続する炎症を抱えている方が少なくありません。生活習慣の見直しはもちろん大前提ですが、それだけでは説明のつかない数値の背景に、口腔内の状態が隠れていることがある。この可能性を、私は診療のなかで常に頭の片隅に置いています。
炎症という共通の橋渡し
では、なぜ歯周病が肝臓に影響しうるのか。鍵になるのは、血流に乗って全身を巡る炎症性物質です。歯周ポケットから侵入した歯周病菌や内毒素は、肝臓というフィルター役の臓器に負担をかけ、炎症性サイトカインの産生を促します。この状態が続くと、肝臓の脂肪代謝やインスリンの効き方に乱れが生じやすくなると考えられています。
興味深いことに、体内の代謝バランスの重要性は、口腔や骨の健康を語る研究からも示唆されています。2024年に報告されたリン酸およびピロリン酸代謝に関する総説では、骨や歯の石灰化がいかに繊細な代謝バランスの上に成り立っているかが示されました。カルシウムやリン酸、そしてピロリン酸といった物質の比率がわずかに崩れるだけで、石灰化障害や異所性の沈着が起こりうるという内容です。体の中の物質バランスが崩れることで思わぬ場所に不調が現れる——この構図は、口腔の慢性炎症が肝臓という遠く離れた臓器に影響しうるという発想とも通じるものがあります。
さらに、慢性的な結晶沈着や炎症が病気の発症・促進に寄与しうることは、2010年の変形性関節症と尿酸・ピロリン酸カルシウム結晶に関する研究でも議論されています。この研究では、結晶の沈着が関節症の進行に関わっている可能性が示唆されました。局所の慢性的な刺激が組織のダメージを後押しするという考え方は、歯周病の炎症が全身の代謝疾患を悪化させうるというシナリオを理解するうえで参考になります。炎症はその場だけの現象ではなく、時間をかけて全身にじわじわと影響を及ぼす。この点を、患者様には繰り返しお伝えしています。
歯周病のコントロールが全身へのケアになる
ここまで読んで、少し不安を感じた方もいるかもしれません。しかし、逆に言えば歯周病をきちんとコントロールすることが、全身の炎症負荷を下げる一手になりうるということでもあります。お口のケアは、遠回りのようでいて、体全体の健康への近道になることがあるのです。
基本となるのは、やはり日々のプラークコントロールと定期的なプロフェッショナルケアです。歯磨剤の成分についても研究が積み重ねられており、2002年に報告されたトリクロサン含有歯磨剤の臨床研究では、歯肉炎への効果が検証されました。この研究は、さまざまな重症度の歯肉炎を抱えた被験者がどう変化するかを前向きに調べたもので、日常のケアに用いる製品が炎症のコントロールにどう関わるかを考えるうえで示唆に富んでいます。日々のセルフケアの積み重ねが、歯ぐきの炎症を確実に減らしていく土台になるということです。
ただし、セルフケアだけで歯周ポケットの奥深くの汚れまで取り除くのは限界があります。ここは正直にお伝えしておきたいところです。歯石や歯周ポケット内のバイオフィルムは、専門的な器具とプロの手でなければ除去しきれません。定期的にお口の炎症の火種を消しておくことが、結果的に肝臓を含めた全身への負担を軽くすることにつながる——私はそう考えて日々の治療にあたっています。
中目黒コヤス歯科の全身を見据えたアプローチ
当院が大切にしているのは、お口だけを切り離して診るのではなく、全身とのつながりのなかで診るという姿勢です。院長である私は歯学博士として、口腔と全身疾患の関わりについて学術的な背景を踏まえながら診療を行っています。歯周病と脂肪肝のような、一見無関係に見える問題こそ、この視点が活きる領域だと考えています。
また当院では、栄養療法や分子整合医学の考え方を取り入れ、炎症を体の内側からも整えるアプローチを重視しています。歯を磨くだけでなく、何を食べ、どう代謝しているのか。脂肪肝という代謝の問題を抱える方にとって、食事や栄養の視点からのアドバイスは、歯周病ケアと相乗効果を生む場面が少なくありません。お口の治療と全身の健康を、別々にではなく一つの流れとしてご提案できるのが当院の強みです。
インプラント治療においても、骨との結合を重視したバイコンインプラントを採用し、長期的にお口の機能と健康を守ることを見据えています。中目黒で歯医者をお探しの方、とくに全身の数値と口腔の関係が気になっている方には、こうした包括的な視点でのご相談をおすすめしたいと思っています。
よくある質問
歯周病を治療すれば脂肪肝も改善しますか?
歯周病治療が直接脂肪肝を治すと断定することはできません。しかし、歯周病による慢性炎症は全身の代謝に負担をかける要因の一つと考えられており、その火種を減らすことは体全体にとってプラスに働く可能性があります。脂肪肝の改善には食事・運動・内科的管理が基本となりますので、内科の主治医と連携しながらお口のケアも並行して進めるのが理想的です。
お酒を飲まないのに脂肪肝と言われました。歯科で何かできますか?
飲酒習慣がないのに脂肪肝がある場合、体のどこかで持続する炎症やインスリン抵抗性が関わっていることがあります。歯周病はそうした慢性炎症の発信源になりうるため、歯ぐきの状態をチェックし、炎症があれば適切にコントロールすることには意味があります。まずはお口の健康状態を確認するところから始めてみてください。
自覚症状がなくても歯周病の検査を受けたほうがいいですか?
はい、おすすめします。歯周病は初期から中期にかけて痛みなどの自覚症状が乏しいまま進行することが多く、気づいたときには炎症がかなり広がっているケースが少なくありません。全身の健康を気にされている方こそ、症状の有無にかかわらず定期的な検査で歯ぐきの状態を把握しておくことをお伝えしています。
まとめとご案内
歯周病と脂肪肝(NAFLD)は、慢性炎症という共通の糸でつながっています。お口の炎症を放置することは、遠く離れた肝臓を含めた全身にじわじわと影響を及ぼしかねません。逆に言えば、日々のケアと専門的なメンテナンスで歯ぐきの炎症を抑えることは、全身の健康を守る確かな一歩になります。
中目黒駅近くの当院では、歯学博士である院長が、栄養療法や全身の視点を取り入れながら、お一人おひとりの状態に合わせたケアをご提案しています。「脂肪肝を指摘されて気になっている」「歯ぐきの調子が最近おかしい」——そんな小さな気がかりでも構いません。中目黒で歯科をお探しの方は、まずはお気軽にご相談ください。
中目黒コヤス歯科 院長 小安正洋




